| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-216 (Poster presentation)
かつて里山と言われていた場所は林部と草原のモザイク分布が広がっており、そこに多くの生物が生息していた。しかし、人の手を離れ遷移が進む現在の里山ではそのような景観は見ることができず、遷移や林床の暗化などにより生物多様性の低下が叫ばれている。そこで本研究では一次消費者であるガ類に着目し、森林環境の違いが食性の異なるこれらの群集構造に及ぼす影響について検討した。
本研究は滋賀県大津市にある3つの森林を調査場所とした。これら3つの森林を周辺環境の違いから4つに分類し、計12の調査地点を設けた。これら12地点でライトトラップ調査及び植生調査を行った。植生調査では樹高1.3m以上の樹木を対象とし、種数、個体数、胸高直径、開空率、草原面積を測定した。
上記の環境要因及びそれらの標準偏差を用いて主成分分析を行った結果、寄与率70.3%で主成分1、2に分類された。主成分1は正に向かうほど胸高断面積は増大し、樹種数や草原面積、開空率は減少した。さらに、主成分2は正に向うほど樹種数や個体数が増加した。
採集したガ類を幼虫期の食性の違いにより木本食、草本食、多食、腐食、地衣類食に分類し、これらの種数、個体数を目的変数、主成分1、2を説明変数として重回帰分析を行った。その結果、木本食ガ類の種数及び個体数、多食ガ類の個体数は主成分1と正の相関が得られ、人為的影響が大きいと考えられる地点で減少した。一方で主成分2、つまり樹木の多様性には影響を受けていなかった。また、その他の食性のガ類はどちらの影響も受けていなかった。
これらのことから、ガ類群集は食性により影響を受ける要因が異なることが示唆された。よって、森林における生物多様性を保全するには、群集により要求する環境の違いについて十分に理解する必要があると考えられる。