| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-366 (Poster presentation)

ザリガニのアリー効果と水草の水生昆虫に対する捕食軽減効果

*西川知里,西嶋翔太,宮下直(東大・農)

新たな生息地に侵入した外来種は、低密度な状態を経た後に個体数を急激に増加させることがある。この原因として、外来種のアリー効果によって創出される、個体数の2つの代替安定状態間での転移が挙げられる。

本研究ではアメリカザリガニを対象として、外来種の環境改変効果によってアリー効果が生じることを示す。アメリカザリガニは湖沼で急激に増加し、水草や水生動物を激減させる侵略的外来種である。私達が取り組んできた実験と数理モデルから、(1)水草の減少はザリガニの水生昆虫に対する捕食率を高めること、(2)ザリガニには、水草を減少させることで自身の採餌効率を高めるというアリー効果が働くこと、(3)ザリガニのアリー効果が代替安定状態を創出することが予測されている。この予測にもとづき「ザリガニの密度が高くなる→水草と水生昆虫の生存率が低くなる→ザリガニの成長率が高くなる」という仮説を水槽実験で検証した。

実験の結果、ザリガニの個体数が多いと水草は全滅したが、ザリガニの個体数が少ないと水草は残った。また、ザリガニの個体数が多いほど水草の隠れ家効果が小さく、ヤゴの生存率が低かった。さらに、水草を入れなかった水槽ではザリガニの個体数が多くなるほどザリガニの成長率は低くなったが、水草を入れた水槽では逆に、成長率は高くなった。実験材料の安定同位体比分析の結果、水草のザリガニに対する貢献度は低く、ザリガニは個体数が多いほどヤゴに依存していた。以上の結果から、ザリガニの個体数が多いと水草が大きく減少してヤゴに対する捕食軽減効果が小さくなり、ザリガニからヤゴへの捕食効率が高まることでザリガニの成長率が高まるというアリー効果が働くことが示唆された。


日本生態学会