| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-014 (Poster presentation)
八幡湿原自然再生事業では、過去に失われた湿原(霧ヶ谷湿原)を再生するため、平成19年度から平成21年度にかけて再生工事が実施された。再生工事では、湿原内に広く水が廻るよう中央を流れる三面張り水路の上流部に取水堰や導水路が作られた。
本研究では、導水路設置による湿原再生に伴う植生の変化を明らかにし、導水路設置の効果を検証するため、導水路設置1年後に植生調査と植生図の作成を行い、導水路設置前の結果と比較した。
八幡湿原のある広島県山県郡北広島町八幡地区は、広島県の北西部に位置し、周囲を1,000m級の山々に囲まれた標高800m前後の盆地である。年平均気温は10℃前後と低く、年間降水量は2,400mmから2,600mmと多く、県内でも積雪量の多い地域である。
植生調査は2011年6月と9月に行い、得られた資料から各植物の最大被度を用いて全層を対象に表操作を行い、群落区分を行った。植生図の作成は、調査地全域を踏査し、表操作により区分された各群落を判別するとともにその境界を記録した。現地の記録と2010年及び2011年に撮影された空中写真をもとに植生図を作成した。
調査の結果、導水路設置前には、カンボク群落やノイバラ−ハルガヤ群落といった乾生群落が広い面積を占めていたが、導水路設置後には、イ−エゾシロネ群落やミゾソバ−アキノウナギツカミ群落といった乾性な立地と湿性な立地の中間的な立地に成立する群落がモザイク状に分布していた。また、導水路の先にできた溜池や導水路沿いには、フトヒルムシロ群落が成立し、一部でナガエミクリが生育していた。再生工事区域では、ノイバラ−トモエソウ群落やヨモギ群落といった乾生群落が部分的に残っているものの導水路設置の効果は高かったと考えられる。