| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-022 (Poster presentation)

異なる地質によって形成される沖積錐上の森林構造の違い

*若松伸彦(横浜国大・環境情報),金子泰久,米林仲(立正大・地球環境)

基盤となる地質が異なれば,風化作用や侵食作用が異なり,その結果,形成される地形も異なる.このような地形の違いは,そこに成立する森林群落組成に違いをもたらすとされる.谷出口の沖積錐は,地形の更新が活発なためこのような傾向が顕著に現われることが予想される.本研究は沖積錐が数多く見られる上高地梓川の支谷において,沖積錐の地形的な特徴とそこに成立する森林群落組成の違いを地質毎に明らかにすることを目的にした.

上高地梓川の支谷に見られる沖積錐の面積と斜面傾斜をGISを用いて計測した.その上で花崗岩と堆積岩が上流部にそれぞれ卓越する沖積錐,および母岩が花崗岩と堆積岩で表層物質の移動が少ない尾根状斜面に調査プロットを合計70ヶ所設定した.調査プロットでは,胸高直径3cm以上の個体を対象に毎木調査(100m2)を行い,表層堆積物の粒度分析を行った.

花崗岩が上流域に卓越する沖積錐は,堆積岩が卓越する沖積錐に比べ,面積が広く,平均傾斜が緩やかな傾向にあった.花崗岩,堆積岩の尾根状斜面では,コメツガ,チョウセンゴヨウとダケカンバが優占しており,地質による種組成に大きな違いは見られなかった.花崗岩の沖積錐では,トウヒ,ウラジロモミ,イチイなどの針葉樹とタニガワハンノキ,シナノキやヤナギ類などの広葉樹種が優占しており種組成が多様であった.堆積岩の沖積錐では,広葉樹種のサワグルミ,シウリザクラ,カツラが優占し,針葉樹種はほとんど見られず,沖積錐では地質によって種組成が異なっていた.表層堆積物は花崗岩の沖積錐では粒度にばらつきが大きいのに対し,堆積岩の沖積錐では粒度にばらつきが小さく,特に細粒の堆積物が少なかった.

地質の違いは,供給土砂の粒度の違いや撹乱頻度の違いを生み出し,その結果形成される地形が異なり,さらには森林組成の差異が生まれていると考えられる.


日本生態学会