| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-023 (Poster presentation)

岩手県沿岸の植生-大津波の影響による変化(1)

*竹原明秀,千葉麻里奈,佐々木裕子(岩手大・人社),大上幹彦,小水内正明

東日本大震災(2011年3月11日)による生物環境や生物相への影響は多方面にわたるが,大津波とその後の復旧事業による環境攪乱は沿岸地域の植生に多大な変化をもたらすことが予想される。そこで,岩手県沿岸の植生を明らかにする研究の一つとして,大津波が到達した地域での植生調査を行った。ここでは大津波発生後1年を経た時点(2012年7~8月)での植生状況を報告する。

調査は岩手県宮古市内の赤前地区(水田耕作地),鍬ケ崎地区(市街地),真崎地区(海岸草原)の3ヵ所で,草本群落を主体に18~24の方形区(2×2mを基準)をランダムに設置し,優占度などを記録した。

赤前地区の水田では海水の浸入により耕作放棄状態となり,残存する塩分の濃度や堆砂の量,地表の凹凸による乾湿の差異,以前の耕作管理状況の違いなどによって多様な植生が発達していた。確認した群落として,コガマ群落,ヨシ群落,ヨモギ群落などの耕地雑草群落のほかに,ハマアカザ,ホコガタアカザ,ミチヤナギなどからなるハマアカザ群落も発達していた。鍬ケ崎地区では優占種が植分により異なるが,ヨモギ,シロザ,ヒメムカシヨモギなどの路傍雑草群落であった。特に帰化植物の被度(優占度から換算)は42%を占め,栽培植物の逸出も見られた。真崎地区では大津波以前とほぼ同じ植生であったが,新たに帰化植物や海浜植物(ハマイブキボウフウ,オカヒジキなど)が進出し,種多様性が増す結果となった。

これらの結果から,大津波による攪乱1年後の植生は多様な植物からなる多様な群落が成立したといえる。しかし,侵入した植物の多くは帰化植物や短命性の植物であるため,継続性のある群落であると判断することはできない。同様に耕作の再開や復旧作業に伴う環境変化により,さらなる植生遷移が起こると考えられる。


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