| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-032 (Poster presentation)
日本海型ブナ林の構成種であるショウジョウバカマやタムシバなどは,中部地方を境として東では日本海側を中心に分布し,西では太平洋側,日本海側の両方に分布する.本研究は,この分布パターンがブナの分布拡大の歴史とどのような関連を持つのかについて,葉緑体DNAの変異パターンの情報をもとに考察した.
調査対象種は,上記の分布をもつ日本海型ブナ林構成種6種(ショウジョウバカマ,タムシバ,ハナヒリノキ,アクシバ,イワウチワ,ツルアリドオシ)とした.1種あたり20-79個体の葉のサンプルを採集し,葉緑体DNAの非コード領域の塩基配列を解析した.
その結果,すべての種から複数のハプロタイプが検出され,その多くは地理的に偏った分布を示していた.特に明瞭な地理的構造を持っていた種はショウジョウバカマ,タムシバ,ハナヒリノキの3種であった.うちショウジョウバカマとタムシバは,東北地方日本海側,北陸,および中部地方太平洋側で同一あるいは近縁のハプロタイプが検出された.このようなパターンは,先行研究で報告されたブナの遺伝的変異パターンと類似しており,ブナと共通する移住経路をたどったとする仮説を支持するものと考えられた.アクシバとイワウチワからは多数のハプロタイプが検出され,ブナと共通するパターンをみとめることができなかった.ハプロタイプの多様性が高いことは,これらの種が最終氷期に分布を極端に縮小せず,一定規模の遺伝的多様性をもつ集団を維持していたことを示している.またツルアリドオシは,ハプロタイプの変異量が小さかったため,検討を見送った.解析対象とした6種のハプロタイプの分布パターンは,一部にブナと共通の特徴がみられたものの,異なる点も多く存在した.
この研究は,平成21,22,23年度に長野県科学振興会より科学研究費助成を受けた.