| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-034 (Poster presentation)
シコクシラベ(Abies veitchii var. shikokiana)は四国中央部の石鎚山、笹ヶ峰及び東部の剣山の頂上周辺にのみ遺存的に生育するシラベの固有変種であるが、地球温暖化等の気候変動による集団サイズの減少が危惧されることから、遺伝資源の保存が重要視されている。本研究では、遺伝的背景に配慮した当該樹種の保全方法の確立に資するため、核SSRマーカーを用いて集団の遺伝的変異を評価するとともに、シラベ母種との遺伝的多様性の比較を行った。
シコクシラベ3集団200個体と、中部山岳地域で選抜されたシラベ精英樹25系統の針葉からDNAを抽出した。他のモミ属樹種で開発されたSSRマーカーのうち適用可能であった7マーカーを選出し、各個体の遺伝子型を決定した。集団の遺伝的多様性や近親交配度を評価するため、allelic richness(AR)、ヘテロ接合体率(HE)や近交係数(FIS)等の統計量を算出した。
遺伝的多様性(AR、HE)は、シラベ精英樹群がシコクシラベよりも高く、シコクシラベの中では剣山が他の2集団よりも有意に高かった。また、シコクシラベ集団のFISは、石鎚山及び笹ヶ峰では有意な正の値を示した一方で、剣山では有意なずれは見られなかった。
四国中央部の集団における低い遺伝的多様性は、本州のシラベ集団と石鎚山集団をRAPD及びGapC遺伝子を用いて比較解析した結果(磯田 2000)と同様の傾向であり、分布の西端にある集団が遺伝的浮動等の影響をより強く受けたことに起因すると考えられた。今後は、紀伊半島や中部山岳等に生育するシラベ天然集団との遺伝的変異の比較を進めていく考えである。