| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-041 (Poster presentation)
樹木集団では花粉の移動による遺伝子流動パターンと交配システムによって次世代を形成する種子の遺伝的多様性は大きく影響を受ける。花粉親としての繁殖貢献度は母樹からの距離と反比例することがこれまで知られているが、一方、繁殖木の雄性繁殖量(花粉生産量)が繁殖貢献度に最も影響を及ぼす要因として報告されるケースもある。このことは、例えば「花粉生産量は多いが集団内で孤立している個体」の繁殖貢献度など、雄性繁殖量の個体間のバラツキとその集団内における空間構造を同時に考慮することが集団の遺伝的多様性のより正確な予測に必要であることを示している。そこで、本研究は仮想集団を用いてシミュレーションを行い、繁殖個体の花粉生産量、集団内の空間構造、花粉散布パターンが種子の遺伝的多様性に及ぼす影響を検討した。モデルでは、繁殖個体の花粉生産量を対数正規分布、それらの空間分布をフォン・ミーゼス分布で規定した。また、花粉散布パターンには指数ベキ乗分布とフォン・ミーゼス分布を用いた。繁殖個体の花粉生産量の空間分布がランダムである場合、花粉生産量の個体間のバラツキが大きくなるほど種子の遺伝的多様性は低下する傾向が認められた。一方、異なる花粉生産量を示す個体が集団中で偏って分布している場合、等方向性の花粉散布パターンを示す集団では種子の遺伝的多様性は個体の空間構造の影響を受けないが、非等方向性の花粉散布パターンを示す集団では異なる花粉生産量を示す個体の空間構造の偏りの程度によって種子の遺伝的多様性はばらつく傾向が認められた。さらに、本報告では花粉の長距離散布の程度、花粉生産量のバラツキ、空間構造の三者の相互作用による種子の遺伝的多様性の程度を比較し、現実の景観構造や集団内の空間構造が森林群集の遺伝的多様性に及ぼす影響を議論する。