| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-043 (Poster presentation)

アカガシとツクバネガシの遺伝的混合

*玉木一郎,岡田愛(森林文化アカデミー)

コナラ属は種の境界が最も低い分類群の一つであり,世界中で多くの自然種間交雑が報告されている。本研究では岐阜から愛知にかけての15地域に生育するコナラ属アカガシ亜属のアカガシとツクバネガシのそれぞれ75と178個体を対象に,葉の5形態形質と核マイクロサテライト9遺伝子座の遺伝子型を調べた。形態形質をPCAした結果,2種の形態はゆるやかに連続するが,PC1とPC2を同時に考慮することで,それぞれの種を区別することができた。遺伝子型データをadmixture解析した結果,6つの遺伝的クラスターが検出された。そのうちの2つはアカガシに,4つはツクバネガシに多く見られたので,それぞれの種における各クラスターに帰属する確率の和を,アカガシとツクバネガシに帰属する確率とした。それぞれの種の21%と13%の個体で,自種に帰属する確率が0.9以下の値を示し,遺伝的混合が見られた。観察された遺伝的混合が共有祖先多型によるものか,または分化後の種間交雑によるものかを明らかにするために,移住無しと有りのそれぞれのシナリオのもとで,Migrate-Nによるコアレセント・シミュレーションを行った。ベイズ・ファクターによるモデル比較の結果,双方向に移住が存在したモデルが支持された。有効集団サイズ(4Neμ)はアカガシ<ツクバネガシ,世代あたりの移住率(m/μ)はツクバネガシ→アカガシ>アカガシ→ツクバネガシとなり,集団サイズの大きいツクバネガシからアカガシへ非対称な種間交雑が生じていることが明らかとなった。また,世代あたりの移住個体数(Nem)はツクバネガシ→アカガシで9.5,アカガシ→ツクバネガシで71個体であった。理論的には,世代あたり1-10個体以上の移住があれば集団間は完全に分化しないとされている。ゆえに,本研究対象種間の遺伝的混合は種間交雑の結果生じたと考えられた。


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