| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-045 (Poster presentation)

絶滅危惧種エゾヒョウタンボクの分布に影響する環境条件

*指村奈穂子(東大院農),吉川徹朗(東大院農),古本良(林育セ),池田明彦(品川区役所)

エゾヒョウタンボクは,主に南千島,サハリン,北海道,本州北部に生育し,環境省RDBでは絶滅危惧II類に指定されている.本種は,本州北部では風穴地のみに分布しているが,北海道では風穴ではない場所にも生育している.そのため,風穴地以外での本種の分布に影響している環境条件を明らかにすることを目的に,2次メッシュの生育情報を用いて,生育地の解析を行った.

エゾヒョウタンボクの分布と気候条件の関係について,分類樹木解析を行った結果,まず8月平均気温が17.7度以下に多くの生育地が分類された.新潟県の風穴でのミクロスケールでの環境調査においても,同様の条件で個体群の分布が規定されていた.そのため,北海道において17.7度より高い温度に分類された生育地は,風穴からの冷気により生育可能になっていると考えられる.次に17.7度以下のメッシュは,8月全天日射量が14.5MJm -2以下に多くの生育地が分類された.このメッシュを地図上に表現すると南東部の海沿い地域に偏っており,この地域は夏季に海霧が発生することが知られている.このことから,夏季の日射量は海霧によって抑えられており,それに本種の生育が影響されている可能性が示唆された.

本州北部においては,現在エゾヒョウタンボクの生育地は風穴地のみにみられるが,最終氷期前後には海流の流れが現在とは異なり,本州北部にも海霧が多く発生したと考えられる.そのため,北海道において現在海霧の発生する地域を地形条件からGLMによって推定し,そのモデルを本州北部に外挿し,かつての本種の生育適地を推定した.その結果,東北地方の海沿いに連続的な生育適地が推定された.現在,東北地方において,風穴地に隔離分布しているエゾヒョウタンボクは,気候条件が変化したことによって分布が縮小し,風穴地に遺存して分布するようになったと考えられる.


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