| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-049 (Poster presentation)
渓畔林樹種は河川氾濫原環境に生育しており,確率的に台風等による氾濫の影響を受ける特徴的な集団動態を示すことが知られている。そのため、1990年代より開発されてきた個体群存続可能性分析(PVA)の標準的手法では、その存続絶滅の評価は難しく、新たな手法が求められている。その困難さの主な要因は.河川氾濫原の地形変化を伴う動態であること,また樹種特性による豊凶現象が集団動態の確率性を引き起こしていることである。そのため、地形変化を記述する下部構造モデルの上に、樹木集団の確率的動態を記述する個体群行列モデルを構築・統合することによって初めて将来予測が可能である。本研究では、統合モデルを開発すると共に,確率的に起こる豊凶現象と河川氾濫の連動が渓畔林樹種の存続絶滅に与える影響を解析することを目的とする。
そのため、京大付属芦生演習林のモンドリ谷渓畔域2.8haの調査区において、センサスされたトチノキ、サワグルミの調査データ(1989年—2003年)を用いて、コンピューターシミュレーションを行った。河川環境の斜面部、段丘部、氾濫原の地形変化を記述するを下部構造モデルとしては、最も簡単なマルコフ行列モデルを用い、台風の訪れない平年では単位行列を採用し、台風年では仮想の地形変化にもとづいた推移行列を採用した。平均k年間隔で台風が確率的に訪れると仮定したトチノキのコンピューターシミュレーションでは、現在芦生研究林におけるk=5の台風撹乱の頻度では、集団増加率は1を割っており、集団の個体数が減少する傾向にあることがわかった。さらに、サワグルミのコンピューターシミュレーションでは、個体群行列モデルに影響を与える結実豊作の頻度を考慮して、地形変化モデルに影響を与える台風撹乱の頻度と結実豊作の頻度との相互作用が集団動態に与える影響を評価した結果を報告する。