| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-050 (Poster presentation)
クローナル植物では、個体群の更新にともないジェネット(遺伝的に同一な個体)の多様性が低下することが知られている。また、環境のヘテロ性が、ジェネットの多様性に影響を与えることが報告されている。しかし、ジェネットの動態を追跡し、環境のヘテロ性がジェネットの動態に与える影響を実証的に検討した例は極めて少ない。そこで本研究では、1996年に一斉更新を開始したチシマザサ(Sasa kurilensis)個体群を用い、林床の光環境がジェネットの動態に与える影響を明らかにすることを目的とした。
2005年、林床の光環境を測定し、開空度で3区分し(ギャップ区:15%、中間区:10%、閉鎖区:5%)、3×3mの調査区を区分ごとに2ヶ所ずつ設置した。2005年と2012年、調査区内に分布する全稈を対象に、SSR7遺伝子座を用いてジェネット識別した。
林床の光環境は、7年間でほぼ変化しなかった。2005年のジェネット数はギャップ区・中間区・閉鎖区で、それぞれ47と105、49と79、15と17だった。ジェネットの生存率は中間区で高く(56%、51%)、消失率はギャップ区で高く(68%と88%)、侵入率は閉鎖区で高かった(67%と69%)。つまり、林床の光環境が明るいほど、ジェネットが消失する割合が増加し、林床の光環境が暗いほど調査区外から侵入したジェネットの割合が高くなることが分かった。その要因の1つとして、明るい林床ではジェネット間の競争が強く働いたこと、暗い林床では新たなジェネットが侵入できる空間があったことが考えられた。
チシマザサ一斉更新個体群では、更新にともないジェネットの多様性が低下するが、局所的にはジェネットの動態が光環境のヘテロ性によって変化することが示唆された。