| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-058 (Poster presentation)
変形菌は原生動物門に属する単細胞のアメーバであり、土壌中や枯死木などの植物遺体中で主に細菌や真菌、低分子の炭水化物を摂食していると考えられている。森林土壌ではアメーバによる摂食活動が土壌中の窒素無機化の主な要因であるという報告もあり、養分循環におけるアメーバの重要性が指摘されている。中でも変形菌は土壌中のアメーバ現存量の約半分を占めるとされ、土壌アメーバの中でも特に機能的重要性の高い生物群であると考えられる。変形菌の食性を種レベルで明らかにすることは、物質循環に果たす変形菌の機能を理解する上で重要である。しかし、アメーバは形態的な特徴が乏しく、口器の形態などによる食性推定や野外で摂食の現場を観察することが難しいことから、変形菌の種レベルでの食性の違いについてはよく分かっていない。本研究では、食物網解析に有用な窒素および炭素の安定同位体比分析を用い、変形菌の食性について検討した。
調査は山形市東部に位置する千歳山(標高471m)において行った。枯死したアカマツ倒木上に発生していた変形菌2種(アミホコリ、ススホコリ)の子実体および、変形菌の食物資源と予想される木材腐朽菌2種(マツオウジ、ヒメカバイロタケ)の子実体と変形菌が発生していた倒木の材をサンプルとして採取した。これらサンプルの窒素および炭素の安定同位体比を測定したところ、材の安定同位体比は窒素・炭素ともにサンプル内で最も低く、それぞれ-6.5~-4.9‰および-27.3~-25.4‰の範囲にあった。木材腐朽菌では、窒素の安定同位体比は材とあまり変わらなかったのに対し炭素の安定同位体比が材に比べ3~4‰程度高く、過去の研究と同様のパタンを示した。変形菌では、炭素の安定同位体比は木材腐朽菌とほとんど変わらなかったのに対し、窒素の安定同位体比が木材腐朽菌に比べ2~3‰高く、どちらの種も真菌食であることが示唆された。