| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-060 (Poster presentation)
対数正規分布は、生態学に広く見られる現象である。これまでの説明モデル(Broken stickやSequential breakage = Kolmogorovの連続破断過程(K過程))等は対数正規分布を再現できるが、これらのモデルが提唱するメカニズムは検証不可能である。そこで、生物系において対数正規分布の成立過程をデータにより直接検証できる例を提示する。樹木ネジキ(Lyonia ovalifolia, ツツジ科)の成木1本(樹高5m)に対し、全ての1年生枝(去年新しく伸びた枝)のサイズ(根元直径)を測定した。その頻度分布は右に裾を引いた一山形の分布であり、直径の対数をとって分布を見るとほぼ左右対象なベル形の正規分布に近いものであった。これらの結果から、樹木1個体の末端枝のサイズ分布はおおよそ対数正規分布で近似できるといえる。樹木がもし自己相似性(それぞれの小枝を拡大すると大枝と同じ形になること)を持つフラクタルであれば、各分岐点における分割の偏りの強さは階層に依存しないと予測される。このとき破断を繰り返した最終結果である末端器官のサイズの頻度分布はK過程と等価になり、対数正規分布するといえる。一般にK過程は時間軸方向に階層構造を持った時系列現象であり、その履歴を辿ることは困難である場合が多いが、枝の分割を繰り返した結果として生成される樹木の末端枝サイズの頻度分布は、ある空間に同時的に存在する空間的階層構造であり、全ての破断履歴を調べることができる。また、その独立性は、各分岐点における分割の偏りの強さ(R)が階層の深さや破断履歴と独立であることを示すことにより直接検証可能である。発表では、各分割におけるRの値が階層の深さに依存せず一定(フラット)になる領域が存在すること、また、ある分岐点におけるRの値が、破断履歴(それまでに通過した分岐点におけるRの値)と無相関であることを報告する。