| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-077 (Poster presentation)
マングローブ植物の根圏では窒素固定活性が検出されることが多い。満潮時に冠水する土壌中で、窒素固定菌はどのように窒素ガスを獲得しているのだろうか?多くのマングローブ植物には呼吸根が発達している。呼吸根は、嫌気環境に適応した「酸素供給経路」であると考えられているが、空気の約80%は窒素であり、呼吸根は根圏への「窒素供給経路」でもある可能性がある。その貢献度を定量的に評価するため、西表島に分布するマングローブ植物のうち3種(ヒルギダマシ、ヤエヤマヒルギ、オヒルギ)について、根圏の窒素固定ポテンシャルを測定するとともに、呼吸根を通じたガスの拡散コンダクタンスも測定して土壌のコンダクタンスと比較した。
流路長と断面積で標準化した拡散抵抗で比較をすると、呼吸根を通じたガス拡散コンダクタンスは、冠出した土壌よりも16~27倍の高い値を示した。仮に流路を3センチとした場合、呼吸根経由の拡散速度は土壌経由の74~85倍、20センチでは43~63倍となる。各樹種の根平均断面積を加味した呼吸根内のガス拡散速度は オヒルギ ≈ ヤエヤマヒルギ > ヒルギダマシの順となった。一方、各樹種の根圏における窒素固定ポテンシャルは、ガス輸送能力が高いオヒルギでもっとも高く、ガス輸送能力が低いヒルギダマシでもっとも低かった。すなわちガス輸送能力と窒素固定ポテンシャルの間に正の相関関係が見られた。
今後、呼吸根を介したガス供給が根系での消費のどれだけの割合を担っているのかを呼吸・窒素固定それぞれについて明らかにする。さらに、多種のマングローブ植物のスクリーニングにより呼吸根の通導性と根系での窒素固定・呼吸速度との関係を解析し、呼吸根の窒素供給機能が、酸素供給のために進化した器官の副次的な機能なのかを検討する。