| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-094 (Poster presentation)
湿生植物は低酸素土壌に生育するため、根の呼吸で維持される様々な活性は利用可能な酸素量によって常に律速される。従って、根の呼吸(酸素消費)特性は、湿生植物にとって低酸素環境への適応戦略を左右する重要な要素となる。
根の呼吸(酸素消費)で得られるエネルギーは、根の成長・窒素吸収・根の代謝維持のために分配される。一般に陸生植物では、相対成長速度(RGR)の高い種ほど、窒素吸収と代謝維持のために投資される酸素の配分比率が低く、根成長のための配分比率は高くなることが知られている。この傾向は、高RGR種ほど、根を発達させ地下資源の獲得・探索能力を高めるためのエネルギー投資戦略へシフトすることを示唆している。
しかし、湿生植物における酸素分配特性は、陸生植物にみられるこうした傾向とは大きく異なる可能性がある。なぜなら、湿生植物では根で利用可能な酸素量が限られているため、根の発達による酸素消費量の増加は容易に許容されないためである。従って、低酸素環境下で高RGRを発揮するには、酸素消費量を増加させずにより多くの窒素を獲得する必要がある。すなわち、根成長への酸素配分比率を下げ、窒素吸収への配分比率を上げなければならない。本研究では、RGRが大きく異なる3種の湿生スゲ属植物を用いて水耕栽培を行い、根の成長・窒素吸収・代謝維持に投資される酸素の配分比率を算出した。
窒素吸収への酸素配分比率は、高RGR種ほど高くなり、代謝維持への配分比率は低RGR種ほど高くなった。一方で、根成長への配分比率は3種とも約10%を示し、陸生植物(25〜45%)と比べて著しく低いことが明らかとなった。従って、湿生植物では根の発達が強く抑制・制御されており、高RGR種ほど窒素吸収へのエネルギー投資を増やす戦略へとシフトすることが示唆された。