| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-096 (Poster presentation)

植物標本を用いた過去の土壌環境の推定:ヤブマメとオミナエシを用いて

*森田沙綾香(農環研),石田麻里(秋吉台科学博物館),太田陽子(緑と水の連絡会議),小柳知代(早稲田大),楠本良延・平舘俊太郎(農環研)

かつての草原を再生するためには、過去の植生とその植生が成立していた土壌環境を知ることが重要である。植生は、過去の植生図などから当時を知ることができるが、土壌については当時の土壌試料がないと判断が難しい。本研究では、植物が土壌環境に応じて特定の無機栄養元素を土壌から吸収する現象に着目し、過去に採集された植物標本試料から過去の土壌環境を推定する手法を開発することを目的とする。全国の草原から採取した約5000点の植物および土壌試料セットについて解析した結果、ヤブマメとオミナエシでは、植物葉中リン含量と土壌中有効態リン酸含有量との間に、それぞれ植物葉中リン含量(%) = 0.0405 ln(土壌中有効態P) + 0.0624 (R² = 0.6129)および植物葉中リン含量(%) = 0.0589 ln(土壌中有効態P) + 0.0242 (R² = 0.6627)の有意な正の相関関係が認められた。このことから、これらの植物のアーカイブ試料が入手できれば、それぞれの植物が生育していた当時の土壌中有効態リン酸含量が推定できるものと考えられた。次に、山口県美祢市の秋吉台科学博物館からヤブマメ(採取地:山口県美東町碇荒地、1986年採取)およびオミナエシ(採取地:秋吉台若竹山東、1988年採取)のアーカイブ試料を恵与いただき、植物葉中リン含量を測定した。その結果、ヤブマメでは植物葉中リン含量は0.262%と高かったことからリンに関して非常に富栄養な環境で生育したことが、オミナエシでは植物葉中リン含量は0.045%と低かったことからリンに関して非常に貧栄養的な環境で生育したことが推定された。これらの推定は、当時の土壌環境に関する聞き取りの調査の結果からも妥当であると考えられた。


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