| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-162 (Poster presentation)

都市林・熱田神宮林の植生の約40年後の変化

*橋本啓史, 今川公揮, 都築芽伊(名城大・農), 長谷川泰洋(名大・エコトピア), 滝川正子(なごや生物多様性保全活動協議会)

名古屋市街地の都市林・熱田神宮林における前回総合調査(1973年)時からの森林の構造の変化と植生の遷移を把握することを目的に2012年9月に15の調査枠で毎木調査と植物社会学的植生調査を実施した.前回の植生調査時には,その前年の9月の台風によって風倒孔のある林分やそれに伴う林床の光環境の改善によって林縁種や路傍雑草が繁茂する植生が生じていた.

名古屋周辺の本来の海岸部の極相林はタブノキ-イノデ群集であるが,丘陵上などのやや乾燥した立地上では,クスノキ-ベニシダ群集,クロガネモチ-ジャノヒゲ群集,アラカシ-ナガバジャノヒゲ群集を経て,スダジイ-ヤブコウジ群集が極相林となると考えられる.しかし,前回調査時にタブノキ-イノデ群集に区分されていた調査枠からはタブノキ-イノデ群集標徴種及び区分種が衰退し,代わりに低木層にはシイが見られている.

前回調査時にケヤキ自然林と区分された群落でも照葉樹林の構成種が進出してきており,クスノキ-ベニシダ群集あるいはクロガネモチ-ジャノヒゲ群集を経て,やがてスダジイ-ヤブコウジ群集へ向かって遷移すると予想される.

前回調査時に代償植生のムクノキ群落に区分された調査枠や風倒孔のあった調査枠では,光を必要とする草本種や林縁種のほとんどが消えていく傾向にあった.一部はタブノキ-イノデ群集に遷移する可能性があるが,多くは高木層にはクスノキが存在し,土壌水分もやや低いため,まずはクスノキ-ベニシダ群集へと遷移すると考えられる.

多くの調査枠でスダジイ-ヤブコウジ群集へ向かって遷移することが予測されたことは,神宮林の乾燥化を示唆していると考えられる.


日本生態学会