| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-270 (Poster presentation)
理論的研究では最適な表現型が環境で異なる(トレードオフの関係がある)とき、表現型可塑性が進化することを示してきた。実証的研究でもこの理論は確かめられてきた。しかしこれらの研究では生物が遭遇する環境は2つの場合に限られてきた(捕食者の存在と不在など)。環境がこのように単純なことはあり得ず、より複雑な条件下で表現型可塑性の進化を論ずる必要がある。
北海道に生息するエゾサンショウウオ幼生には標準型形態に加えて、捕食者(ヤゴ:ルリボシヤンマ)の存在で体長に対して相対的に尾高が高くなる捕食者誘導型と被食者(オタマジャクシ:エゾアカガエル)の存在で体長に対して相対的に顎の幅が広くなる被食者誘導型をもつ幼生が存在する。標準型、捕食者誘導型、被食者誘導型の幼生を、それぞれ形態別に3つの処理(エゾサンショウウオ幼生のみ、エゾサンショウウオ幼生+ヤゴ、エゾサンショウウオ幼生+オタマジャクシ)に分けて野外設置したエンクロージャーで飼育した。各エンクロージャーでは個体別に生存期間、変態までの期間、変態時の体サイズを記録した。ヤゴ環境では生存期間は捕食者誘導型>標準型>被食者誘導型の順で長かった。また全ての個体が捕食で死亡したため、変態までの期間と変態時の体サイズは記録できなかった。オタマジャクシ環境では変態までの期間は捕食者誘導型>標準型>被食者誘導型の順で長く、変態時の体サイズは捕食者誘導型>標準型>被食者誘導型の順で大きかった。また生存期間は標準型>被食者誘導型>捕食者誘導型の順で長かった。エゾサンショウウオ幼生だけの環境では生存期間、変態までの期間、変態時の体サイズは形態間でほとんど差がなかった。