| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-272 (Poster presentation)

アカウミガメにみる大型海棲爬虫類の成熟戦略

*石原孝(東大院・農/ウミガメ協),亀崎直樹(東大院・農/須磨水)

ウミガメ類は現生する科がすべて中生代白亜紀には出現しており,海洋環境とその変化に適応・対応していることが伺える.本研究ではウミガメ類の適応戦略を紐解くため,世界の大洋に分布する普遍種であり,4.5–5百万年前には出現していたアカウミガメについて,北太平洋個体群内の成熟戦略を年齢,体サイズとその性比から検討した.また,北太平洋個体群は太平洋を横断して回遊するものの,日本の砂浜でのみ産卵し,日本近海は重要な繁殖域ともなっている.ここでは日本国内で混獲死あるいは死亡漂着した個体を用い,標準直甲長(SCL)を計測した後,生殖腺から性判別および幼体・亜成体・成体への分類をし(n=152),骨年代学的手法によって年齢を推定した(n=79).性的二型は認められず,亜成体と成体のSCLは73.8–85.3cmの範囲で重なっており,50%成熟甲長はSCL82.1cmであった.平均的な成熟年齢は37–43歳の間にあると考えられたが,成体と亜成体の推定年齢は21–61歳の範囲で重なり,成熟年齢の範囲は非常に広かった.加えて,小型の成熟個体は必ずしも若いわけではなく,大型の成熟個体は必ずしも老齢なわけではなかった.また,発生時の温度で決まる性比もSCLや年齢の違いによる違いは認められなかった.世代交代に長い年月のかかる生物の場合,生まれてから繁殖を開始する間に成育海域や繁殖域の環境が変化することは起こりえることであり,アカウミガメが産卵地とする砂浜は動的で不安定な環境でもある.そのため繁殖を開始するタイミングや成育する海域を分散させ,環境の変化に対するリスクも分散させていると推察される.その結果,個体群の中でも多様な成熟戦略が存在するようになり,多様な成熟戦略は環境の変化への対応を可能にし,氷河期などの環境変化にも対応できたのであろう.


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