| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-275 (Poster presentation)
強い交尾競争環境ではオスはメスの再交尾遅延・抑制を通じてメスを操作するような形質が進化しやすく,メスにとってオスの操作による傷害やエネルギー的なコスト等のリスクが高くなると考えられる.不妊虫放飼法(SIT)による根絶をおこなうには対象害虫を長期にわたって大量に確保する必要がある.沖縄県では,SITに用いるアリモドキゾウムシCylas formicariusの累代大量飼育を現在まで約15年(約95世代)行っている.本種のメスは一度交尾するとフェロモン分泌を停止するため,野外では再交尾の機会はほとんど無いとされる.一方,増殖環境では雌雄が大量に狭い空間にいるため,野外とは違いメスは多回交尾する可能性が高い.この様な増殖系統において,オスの操作形質等の進化が検証しやすい.
実際,射精物によりメスを早死にさせるという特殊な操作形質が増殖系統内のオスの一部に現れていることがわかった.野外では,メスを早死にさせる事はオスにとって次世代を残せないおそれがあり,メスを殺す形質が何故あるのか,どのように維持されているのか,遺伝的な形質なのかはまだ不明である.本研究では,メス殺しの意義やメスへの影響を解明するために増殖系統内の早死にさせるオスの交尾頻度や次世代数,生殖付属腺抽出物の濃度によるメスの生存率などを調べた.その結果,早死にさせるオスの交尾頻度や次世代数は通常のオスと比べ増加は認められなかった.また,その生殖付属腺の濃度を減少させる事でメスの死亡率も低下する事がわかった.このメスを早死にさせるオスの繁殖形質の適応的意義や増殖環境における維持機構について考察する.