| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-485 (Poster presentation)
河川に遡上したサケが陸上動物などにより河畔林内に運ばれることにより、陸上生態系の食物連鎖にも影響をおよぼすことは、安定同位体分析などにより,植物や昆虫,哺乳類など様々な生物で確認されてきたが,土壌中の微生物や菌類への影響について報告されたものはほとんどない。筆者らはサケ死体(以後,ホッチャレ)の設置実験により,樹木への施肥効果、昆虫や野生動物によるホッチャレの消費,分解過程などを明らかにしてきた。その中で,ミズナラ,シラカンバなどからなる落葉広葉樹林内において,ホッチャレ分解後に高濃度のアンモニア態窒素が土壌に添加されるとともに,Peziza sp.,Coprinus sp. ,Hebeloma sp.などのアンモニア菌の子実体(キノコ)が発生することを確認した。そこで,自然のサケ遡上河川においても同様のキノコ発生が見られるのかどうかを確認するため,動物によるホッチャレの河畔林内への運び込み実態,および分解消失過程の定量的把握とともに,キノコ発生の有無を調査した。その結果,前年のホッチャレ分解跡地に特異的に発生するモリノニオイシメジ(Tricholomella constrictum)を確認した。これは先行するサケ設置実験で翌年の秋に発生したものと同種であったが,現地の河畔においては,川との比高50cm以内の氾濫原では発生せず,比高1m前後の林内まで運ばれたホッチャレ跡地のみで発生が見られた。このことは,洪水撹乱を受けにくい林内への動物によるホッチャレ運搬が,菌類の子実体発生のホット・スポット形成につながることを示唆する。