| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-491 (Poster presentation)
人工林や薪炭林のような同齢林では森林の成熟につれて NEP は0に近づいて行くが、これは樹木NPP が林齢に伴い低下することが主な原因である。しかしギャップダイナミクスを持つ同齢ではない成熟林での炭素循環の研究はまだ十分ではない。ブナ林の NPP については IBP時代から多くのデータの蓄積があるものの、成熟林の林冠木の枯死は時間的・空間的に不均質におこり、物質生産の研究においても大面積での長期的な研究が求められる。本研究は白山の山麓に成立する冷温帯ブナ-ミズナラ原生林について、森林動態とリタートラップの調査から樹木NPP の推定を試みた。この森林は昨年度報告したように、白山噴火後に成立したと考えられる300-400年生の原生林である。2012年の1年間の樹木純増加量(乾燥重量)は地上部で 3.4 t ha-1 yr-1、太根で0.6 t ha-1 yr-1と推定された。この1年間の枯死個体はわずかで、Δバイオマスは3.8 t ha-1 yr-1であった。当年生リター(葉や種子等)は 4.4 t ha-1 yr-1であり、細根を除く樹木NPPは 8.2 t ha -1 yr-1 と推定された。この森林の地上部バイオマス(葉を除く)は478 t ha-1で、ブナ(235 t)とミズナラ(220 t)の2種でほとんどを占めているが、1年間の樹木純増加量の70%以上はブナが占めていた。冷温帯落葉広葉樹林と比べて、この森林のブナの成長量は依然として大きく、成熟林でもNPPはほとんど低下しない事が示唆された。一方で、ミズナラの更新個体はほとんど無く、13本の林冠木は巨木ばかりで(平均直径103 cm、最大202 cm)、その成長量は小さかった。しかしミズナラの直径は極端に大きいので、その直径成長の測定誤差とアロメトリーの推定誤差がNPP推定に大きな影響を与える。