| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) B2-02 (Oral presentation)
カワウ(Phalacrocorax carbo)は、湖沼や河川でアユなどを捕食し繁殖地で森林の樹木を枯らすことから、多くの地域で害鳥とみなされている。しかし、愛知県知多郡美浜町上野間の「鵜の山」では、地元の人々がカワウの排泄物を採取し肥料として利用することで、かつてはカワウから恩恵を受けていた。著者らが行ってきた空中写真判読による鵜の山の植生遷移(亀田 2010)や、糞採取経験者への聞き取り調査による採糞技術の詳細(藤井 2010)から、糞採取にともなう森林管理がカワウ繁殖地の森林衰退を防ぎ回復を促進する効果があった可能性が示唆されている。つまり、生態系サービスの持続的享受のための人間の管理が、森林衰退というカワウによるマイナスの効果を軽減していた可能性がある。そこで本研究では、かつて鵜の山で行っていた糞採取と同様の方法でカワウ排泄物の除去を実験的に行い、それが樹木の生存や成長にどのような効果をもたらすのかを検証した。糞採取を行っていた時期の優占樹種であるクロマツ(実験開始時の平均樹高約30cm)をポットに植えて鵜の山に設置し、かつての糞採取の間隔に合わせ、砂撒きと排泄物の採取を週一回実施する実験を行った。実験期間は2013年5月より11月までで、週一回の照度測定、2週間に一回のクロマツの生存率、樹高、株元周囲長の測定、そして5, 8, 11月にはクロマツの生葉と土壌の表層および深さ約15cmの層の採取を行った。クロマツ生存率は、カワウ繁殖地内の「砂撒き+糞採取なし」の処理区で最も高かった。相対樹高成長率(RHGR)は繁殖地外では処理区間で有意差はなかったが、繁殖地内では「砂撒き+糞採取なし」区が「砂撒きなし+糞採取なし」区より有意に高い値を示した。この結果から、砂撒きという糞採取にともなう人為作用が、クロマツの樹高成長を促進する効果を持つ可能性が示唆された。