| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) C2-04 (Oral presentation)

河畔林における自然撹乱がゴマギ(ガマズミ属)の実生更新に与える影響

*郡 麻里(首都大・院・理工・生命・客員研究員),可知直毅(首都大・院・理工・生命科学)

ゴマギ(Viburnum sieboldii)は日本固有のガマズミ属の低木で、太平洋側では主に利根川水系などの河川後背低地や河畔林の低木層に特異的に分布し、日本海側では変種のマルバゴマギが同等な生育立地に出現する。しかしこのような立地は全国的に減少しており、今後の生育地保全のための基礎情報として著者は1990年代後半から以下の調査を継続してきた。1.林内の光環境および冠水頻度がゴマギの種子生産および実生定着にどのように影響しているか。2.ゴマギの実生による更新が河畔林においてどの程度個体群動態に貢献しているか。

結果、初夏の冠水頻度が高い年は林床の草本層(ヤエムグラ、アマチャヅル等)が一掃され当年生実生の多くが定着したが、冠水のない年は高木層と草本層による被陰や乾燥により枯死した。一方、数年に一度の大規模な出水後の実生は、泥をかぶりつつも河床勾配が緩く掃流力が弱いため洗掘や埋没による死亡は免れた。冠水以外の主な地表攪乱は春先のノビルの根茎採取や踏圧であるがこの人為攪乱が大きい場合アレチウリ、オオブタクサなどの大型外来植物が侵入しゴマキが被陰された。また、洪水頻度が少ない比高の高い立地では常緑樹の遷移で光環境が悪化した。ゴマキ実生は、落葉樹林下での耐陰性と冠水耐性や萌芽特性を持つこと、洪水により林床草本が抑制されることによりかろうじて生残してきたと思われる。一方、ゴマキは毎年赤と黒の目立つ果実を生産し、ヒヨドリやムクドリなどの留鳥により種子散布される。本種の存続にとって、定着に適した生育立地が種子散布者の止まり木周辺に存在し、ハンノキ、エノキなどの落葉樹からなる多様な微地形を含む河畔林が連続して存在することが重要と考えられる。


日本生態学会