| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) E1-06 (Oral presentation)
一年生ロゼット植物であるシロイヌナズナにおいて、開花時期決定に関わるSOC1遺伝子およびFUL遺伝子の両方が欠失した変異体では、本来花がつくべき箇所に葉が展開し、多年生植物と類似した表現型を示す。本研究ではこの一年生から多年生への転換が、花芽分化期におけるフロリゲン(FTタンパク)の時空間動態変化によって生じる可能性を、数理モデルを用いて検討した。
FTタンパクは葉で作られ、篩部転流によって葉から茎頂分裂組織(生長点)に輸送されることで花芽形成のシグナルとして機能する。本研究では、FTタンパクの輸送を圧流説に基づく篩部転流モデルを用いて分析した。篩部転流モデルでは、ショ糖が合成される葉(ソース)では浸透圧差によって純水が導管から篩管へ流入し、ショ糖が消費される生長点(シンク)では純水が篩管から導管へ流出する。このため膨圧差が生じ、膨圧の高い葉から低い生長点へと向かう師管液の流れが管内に生じると仮定する。FTタンパクはショ糖と比べて微量であるため、この流れに影響を与えることはなく、流れに乗って各生長点に輸送されるとした。生長点においては、一定時間内に届いたFTタンパク総量がある閾値FCを超えると花芽が形成されると仮定した。本モデルにおいて、SOC1遺伝子およびFUL遺伝子の欠失は、閾値FCが大きくなることに対応する。
モデル解析の結果、閾値FCおよび輸送量を左右するパラメーター(篩管半径)の組み合わせによって、花茎に連続的に花がつくられる野生型から全てが葉となる型(SOC1、FUL両欠失型)まで、様々な型が現れることがわかった。これらの中には、一度花芽が形成された後に葉が展開し、さらに遠位でまた花芽が形成されるという特筆的な型も含まれる。以上の結果を踏まえて、多年生~一年生の生活史進化について考察する。