| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-08 (Oral presentation)

CN安定同位体比から見る内湾域残存マングローブ林の機能

*小川裕也(京大・農)・神崎護(京大・農)・中野孝教(地球研)・北島薫(京大・農)・Sadaba Rex(フィリピン大学ヴィサヤ校)

生態系の物質循環の現状や将来を明示するには,様々な物質の同位体組成の空間変動情報を取り扱うアイソスケープモデルが有効とされている.本研究は1988年以降に90%以上のマングローブ林がエビ養殖場に転換したフィリピン・パナイ島のバタン湾にて行った.様々な動植物と底質を調査地全体から網羅的に採集し,分析することで,湾内の窒素・炭素安定同位体比の空間分布と有機物供給源としてマングローブ林の貢献度を解明することを目的とした.湾内の植物(葉・根),植物プランクトン,底生微細藻類,底質を網羅的に採集・分析し,各サンプルのδ13C値,δ15N値,全炭素(TC),全窒素(TN)を測定した.得られた測定値はGPS情報が付加されており,衛星画像とArcGISを用いて空間情報解析を行った

バタン湾内の底質中有機物のδ13C値は陸域から海域にかけて約-29‰から約-25‰の推移が確認でき,淡水と海水の混合を指標する塩分濃度と正の相関を示すため陸生有機物が影響を及ぼしている程度や範囲が理解できた.さらに,一般的な海底堆積有機物のδ13C値(約-20‰)と比較すると低く,バタン湾内ではマングローブ林伐採後も,マングローブ林により形成された有機物が底質中に滞留し湾内生態系の物質循環に大きく貢献している可能性が示された.また,天然マングローブ林内から湾内にかけて設置した数十メートルのライントランセクトにおいても底質中有機物のδ13C値は大きく変動し,それに伴いC%,C/N比も変動している.δ13C値は大小二つのスケールにおいて,陸域から海域にかけてほぼ同範囲(-29~-25‰)の変動を示すことも明らかとなった.底質中の陸生有機物と海洋性有機物の混合比率の分解過程にともなう変化がこのようなパターンを作り出すと考えられる.


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