| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-14 (Oral presentation)

近畿地方における過去3000年間の人間活動が現植生の成立過程に与えた影響

*高原 光,佐々木尚子(京都府大・生命環境),林 竜馬(琵琶湖博)

人々の生活と密接に関係してきた里山などの現在の植生がどのような経過を得て形成されたかを明らかにするため,京都盆地,丹波山地,琵琶湖東岸低地,丹後半島,紀伊半島山地において,花粉分析,微粒炭分析,植物珪酸体分析などによって解明された植生変遷に関する研究成果を比較し,現植生の形成過程に人間活動が与えた影響を検討した。琵琶湖東岸低湿地では3000年前頃から火事が多発し,それまで優勢であったスギ,カシ類を中心とする植生で,カシ類が減少を始めた。約2500年前にはイネの栽培が始まり,約1200年前にはアカマツの増加が認められカシ類の減少がさらに進んだ。京都盆地ではカシ類,スギ,ヒノキ科などからなる植生で,やはりカシ類の減少が約1300年前から始まり,江戸時代にはアカマツが優勢となった。日本海に面する丹後半島沿岸部では,スギの優勢な植生が発達していたが,2000〜1500年前に,アカマツが増加をはじめ1000年前以降にスギはほとんど衰退し,アカマツやナラ類等の落葉広葉樹からなる森林が形成された。丹後半島山間部では約1000年前に火事が多発し,アカマツが増加し始め500年前には優勢となった。また,多くの場所で,ソバの栽培が伴っていた。丹波山地では約1000〜600年前に火事の多発に伴いアカマツが増え始め,場所によってはイネ科草原が拡がった。紀伊半島山地の曽爾高原周辺では,1000年前以降火事が多発し,モミ,スギ,カシ類などから成る植生が衰退し,アカマツ,ナラ類からなる森林とイネ科,ヨモギ属などからなる草原が拡がった。以上の様に近畿地方各地で約3000年前以前に拡がっていた植生は,農耕などに伴う火入れによって,大きく変化し,二次林として里山が形成された。


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