| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-16 (Oral presentation)

福井県中新統内浦層群から産するオウムガイ類Aturia属の生息水深推定

*唐沢與希(京大・理),前田晴良(九大・総研博)

漂泳性動物は,すべての遺骸が生息場から離れて埋没するため,生態復元には遺骸運搬過程の解明が不可欠である.そこで,中新世の絶滅オウムガイ類Aturiaの化石の保存状態を現生オウムガイの漂着遺骸と比較し,殻破損と死後運搬の関係を検討した.

福井県大飯郡高浜町小黒飯の中新統内浦層群から得たAturia化石68標本(福井市自然史博物館に収蔵)のうち,殻直径が5cm以下のものは11標本を占めた.現生オウムガイの漂着遺骸には小型個体がほとんど含まれないが,これは両者の生息水深の違いを反映すると思われる.すなわち,頭足類遺骸は死後軟体部の脱落により浮上し,連室細管から浸水して再沈降するが,浮力を生む気室の容積は殻直径の3乗に比例する一方,単位時間あたりの浸水量は連室細管断面積に応じて2乗に比例するため,殻直径が小さいほど,浮力を失うまでに要する浸水時間は短く,遺骸がすぐに沈むと推測される.また,観察したAturia標本はすべてに殻破損が見られるが,共産する二枚貝類は合弁・生息姿勢を保ち,殻破損が見られない.よってAturiaは,遺骸が漂流して破損・堆積した異地性の産状を示す.さらに,19個体が殻の全周にわたって腹側のみを欠損していた.石炭系Graham Formation産の頭足類化石にも見られるこの破損パターンは,当初は捕食痕とされたが,Aturiaには有機質の連室細管が残るため,肉食・腐肉食者の破壊とは考えにくい.他方,岩礁近くの砂浜に漂着した現生オウムガイ遺骸に類似した破損が見られるため,漂流時の物理的破損である可能性が高い.

以上から,Aturiaは現生オウムガイより浅い環境に棲み,その遺骸は海面を漂流する間に岩礁に衝突して沈没,堆積したと推定される.


日本生態学会