| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) F2-02 (Oral presentation)
「アリ植物」と呼ばれる植物は、空洞化した茎などの特殊な構造の器官を形成し、そこに営巣する共生アリに被食防衛を委ねている。アリ植物を寄主として利用する植食者が共生アリにどのように適応しているのか、共生アリによる防衛がそれらの植食者の寄主範囲にどのような影響を与えているのかといった問題は、ほとんど研究されていない。そこで演者らは、マレーシア・ボルネオ島において行った野外観察と摂食選択実験の結果をもとに、トウダイグサ科オオバギ(Macaranga)属のアリ植物種を利用するナナフシ2種Orthomeria alexisとO. cuprinusの寄主利用に与える共生アリの影響を検証した。その結果、いずれのナナフシにおいても、主な寄主は共生アリ種が同じでそれによる防衛強度がほぼ等しい近縁な2種のアリ植物に限定されること、両者の寄主範囲は重複しないことが明らかになった。いずれのナナフシも、アリが接近すると、脚の上下動や歩行による逃避によって攻撃を回避していた。他の部位に比べアリ防衛が強力な新葉部を、O. alexisはほとんど利用していなかったが、O. cuprinusは観察個体の半数以上が滞在場所として利用していた。また、ナナフシ2種の寄主植物1種ずつと、それら2種のオオバギより共生アリによる防衛が強く化学防衛が弱い種(M. winkleri)の合計3種の葉を、アリを除去した上で、成虫個体に同時に与えて摂食量を比較した。その結果、O. alexisはM. winkleriに通常の寄主種と同程度の選好性を示したのに対して、O. cuprinusは通常の寄主種のみに強い選好性を示した。これらの結果から、アリ防衛の強弱がO. alexisの寄主範囲を限定する要因となっていること、および、O. cuprinusの寄主範囲の決定にはアリ防衛以外の要因が強く関与していることが示唆された。