| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) F2-08 (Oral presentation)
シュウ酸カルシウム針状結晶(raphide、以下針状結晶)はサトイモ科、ヤマノイモ科、ユリ科、ヤシ科、パイナップル科など多数の単子葉植物やブドウ科・マタタビ科(キウイ)、アジサイ科、アカネ科等一部の双子葉植物など極めて多くの植物に含まれる0.01~1mm程度の針状構造体で植物組織中(葉・茎・根他)の特殊な異形細胞に大量に蓄えられている。その役割には諸説があるが、現時点では植食性生物に対する被食防衛機構であるという防御仮説が有力である。しかし、実験的にその防御効果と作用メカニズムを精製した針状結晶を用いて明快に示した実験例は無かった。針状結晶はしばしばシステインプロテアーゼと共存する(キウイ・パイナップル)ことから、針状結晶が動物組織・細胞に穴を開け防御物質の作用点への到達を容易にするという注射針仮説の検証を試みた。針状結晶をキウイフルーツから精製しその防御効果をヒマ葉に塗りエリサン幼虫(ヤママユガ科)摂食させ検定した。その結果、針状結晶とシステインプロテアーゼはそれぞれ単独では成長阻害活性が弱いが、両者の共存下では極めて強い殺虫・成長阻害効果が観察された。さらに、シュウ酸カルシウム単独で2量、またはシステインプロテアーゼ単独で2量塗布した場合致死効果が見られないのに対して、シュウ酸カルシウムとプロテアーゼを同時に各1量ずつ塗布した場合極めて強い成長阻害効果と致死効果がみられたことから、両者が相乗的に効果を示すことが判明した。一方、シュウ酸カルシウム不定形結晶をプロテアーゼと共存させても防御活性は観察されず針状の形状の重要性が判明した。この結果は針状結晶が他の防御物質との共存下で他の防御物質の働きを顕著に強めて強い防御効果を発揮するという相乗的防御効果を明確に示した初めての実験例であり注射針仮説を支持すると考えられる。本講演では、この相乗的効果の一般性に関しても論ずる。