| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) F2-10 (Oral presentation)
自家不和合性は、自家受精を遺伝的に防ぐシステムであり、被子植物に普遍的に見られる。およそ 50 % の種が自家不和合性を備えている (Igic ら 2008)。
自家花粉の識別は S 遺伝子座によって制御されている。この遺伝子座は、雄側(花粉または葯)で発現する識別遺伝子と雌側(雌しべ)で発現する識別遺伝子とからなる。そして、たくさんの対立遺伝子が分化している。花粉(または花粉親)が持つS対立遺伝子と雌しべが持つS対立遺伝子とが合致すれば、花粉の発芽または花粉管の伸長が阻害される。それにより自家受精が阻止される。
S 対立遺伝子は、どのように多様化したのであろうか? 新しい S 対立遺伝子が分化するためには、お互いに識別し合う変異が、雄側と雌側とのそれぞれにおいて生ずる必要があるのだ。これまでの理論的研究から、S 対立遺伝子の多様化は非常に難しいことがわかっている。
本研究では、S対立遺伝子が多様化する新仮説を提唱する。この仮説では、S対立遺伝子の起源は古く、同じS対立遺伝子が異なる種間で共有されていることに着目する。このことは、S対立遺伝子の多様化が、自家不和合性という仕組みが進化した初期に起きた可能性を示唆している。一方、同じS対立遺伝子の中に、表現型に影響しない変異が存在することが明らかになってきた。これらを踏まえ、自家不和合性が不完全(自家花粉を完全には拒絶できない)な集団を考える。その集団中のあるS対立遺伝子に、自身のペアをより強く拒絶できる変異が出現したとする。自殖をより強く防ぐことができるので、この変異型は広まっていく。この過程は、雄側または雌側どちらか一つだけの突然変異しか必要としない。そのため、こうした変異は比較的起こり易いであろう。これにより、S対立遺伝子が多様化してきたと提唱する。