| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) F2-12 (Oral presentation)

Heating achenes by perianths accelerates seed production of an alpine herb, Ranunculus glacialis

*IDA, Takashi, TOTLAND, Ørjan (Norwegian University of Life Sciences)

多くの植物種では,開花期の訪問者への誘引という役割を果たした後,すぐに花弁を枯らせる.これに反し,ヨーロッパの北極沿岸から高山帯に生育するRanunculus glacialisは,花弁を種子成熟期にも維持する.開花期間以後にも花弁を維持し続ける適応的意義を評価するため,本研究ではR. glacialisの花弁を実験的に取り除き,その果皮温度,果実成長,資源分配,及び種子生産への影響を調べた.開花期間を終えた直後に花弁を取り除いた個体は花弁付きの個体に対し,果皮温度は低く,果実成長は遅く,種子生産は大幅に低い.開花期と結実期で花弁重量に違いはないことから,結実期のための新たな資源投資はない.また,炭素安定同位体を用いたトレース実験は,花弁維持への資源投資は果実成長に比べ取るに足らないことを示している.このように,R. glacialisは,種子成熟期の花弁維持により種子生産能力を高める一方で花弁維持コストは小さい.高山帯や北極地方では,低温は果実成長を著しく低下させます.こういった環境で種子生産は,資源有効性による制限(資源制限)よりも低温による成長の鈍化(シンク制限)が強く作用する.ゆえに,花弁維持により果実を暖かく包むことは,雌繁殖成功を高める適応的な形質だといえる.


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