| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-05 (Oral presentation)

生物的防除のパラドックス: 複数種の天敵の導入は効果的か?

*池川雄亮, 江副日出夫, 難波利幸 (大阪府大院・理)

生物的防除は、農業害虫をそれらの天敵を導入することで駆除する方法である。この方法では、防除の効果を上げるために、1種の害虫に対して複数種の天敵が導入されることがある。天敵種間に捕食-被食相互作用がある場合、この系は害虫 (共有被食者)とそれを食う天敵 (中間捕食者)とそれら2種を食う別種の天敵 (雑食者)で構成されたギルド内捕食系 (IGP系)である。古典的なIGPの理論研究は、共有被食者をより多く捕食する1種の捕食者を用いる方が2種の捕食者を用いた場合よりも共有被食者の平衡個体群密度が小さくなると予測する (つまり複数種の天敵導入は生物的防除の効果を必ず減少させる)。一方、実証研究では複数種の天敵導入が生物的防除の効果を増加させる場合もあり、理論の予測と一致しないことがある。この原因の1つとして、従来の理論研究では生物の行動の可塑性を考慮していないことが考えられる。本研究では、古典的なIGPモデルを拡張し、共有被食者の防御および雑食者の餌選択行動が共有被食者の平衡個体群密度に与える影響を調べた。共有被食者は2種の捕食者の密度や捕食圧に依存して自身の一個体当たりの成長率を増加させるように対捕食者防御行動を変化させると仮定する。雑食者は共有被食者と中間捕食者に対してスイッチング捕食を行うとし、相対密度が小さい被食者に対する捕食率が密度比に比べて小さくなると仮定する。雑食者のスイッチング捕食を考慮せず共有被食者の対捕食者防御のみを考慮した場合、天敵間のギルド内捕食が弱ければ、複数種の天敵導入によって害虫の密度が最も抑制された。また、雑食者のスイッチング捕食を合わせて考慮した場合、天敵間のギルド内捕食が大きい場合でも、同様の結果が得られた。つまり、複数種の天敵導入が生物的防除の効果を増加させる場合があることが理論的に示された。


日本生態学会