| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) G2-11 (Oral presentation)
多くの原核生物は、環境中のDNAを取り込みそれをゲノムに組み入れる事で、外部から遺伝情報を獲得する能力をもつ。この遺伝子水平伝播と呼ばれる機構の進化的意義は何であろうか?
ある仮説によると、遺伝子水平伝播は突然変異によって失活した遺伝子を復元する事で、無性生殖集団における有害突然変異の偶然的蓄積(マラーのラチェットと呼ばれる)を防ぐ効果があるとする。しかし、環境中のDNAをゲノムに組み入れることは有害であるとも考えられる。なぜならば、環境中のDNAは有害な突然変異を蓄積したことによって死亡した細胞からも由来し、したがって平均すると環境中のDNAは生きている細胞のもつゲノムDNAよりも多くの有害変異を含むと考えられるからである。
この問題を考察するため、本研究では遺伝子水平伝播を起こす原核生物の集団遺伝学モデルを解析した。その結果、たとえ遺伝子水平伝播は上述の理由により平均してゲノム内の有害突然変異を増加させる方向に働くとしても、遺伝子水平伝播はマラーのラチェットを防ぎ、それによって集団の適応度を高い状態に維持するという効果がある事が分かった。さらに、もし遺伝子水平伝播が十分高頻度に起き、かつ環境中のDNAの拡散が十分速い場合には、分割された集団のほうが、全体として同じサイズの分割されていない集団よりも、マラーのラチェットを防ぎやすいという結果が得られた。この結果は、集団が非常に細分割されている事が知られている土壌中の原核生物に対して、特に意義を持つ結果である。
これらの結果から、遺伝子水平伝播は、原核生物の持つ遺伝情報の進化的時間スケールでの維持に重要な役割を果たす可能性があるという結論が得られた。