| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) H2-04 (Oral presentation)
外来生物が数世代に渡って比較的低密度で潜伏したのちに、爆発的な分布拡大を起こす現象が知られている。外来生物の管理という観点から、外来生物個体群のそのような爆発的な分布拡大を事前に知ることは重要である。個体の空間分布に基づく局所的なアリー効果を受ける個体群では、低密度のときに個体群全体の増殖率と死亡率が釣り合うことで、爆発的な分布拡大が世代時間の数倍の潜伏を経たのちに起こる可能性がある。本研究で、我々はそのような空間的アリー効果を導入した個体ベースモデルを調べた結果、前兆をとらえるためには個体分布の空間的な性質に注目することが重要であることを明らかにした。アリー効果の有無は分布構造の質的な違いにつながるが、それは分布拡大の危険性が高まるとともに顕著になっていた。そのことは空間相関を通して検出することができた。これまでの研究では、空間相関によって臨界状態に特徴的な性質(長距離相関)を検出することで劇的な状態遷移の前兆が捉えられることは指摘されていたが、ここでの空間相関の役割はそれとは異なりアリー効果の存在に特異的な性質(シャープな分布境界)を検出することであった。一方で、変動係数や自己相関といった個体数変動の時間的性質は分布拡大の接近に一定の鋭敏性を示すものの、爆発的な分布拡大の原因がアリー効果であるのか、大域的な環境要因にあるのかを区別することはできなかった。ここで得られた結果は、これまでは予測の難しかった外来生物個体群の爆発的分布拡大を予測する際の指針を与えるものであると同時に、劇的な状態遷移の検出に新しい視点をもたらすものである。