| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) H2-07 (Oral presentation)
桶ヶ谷沼は静岡県西部磐田市の丘陵に位置する面積約7ha の沼である。水生生物、特にトンボの宝庫として著名で、東日本におけるベッコウトンボの唯一の産地でもある。地元の保護団体などの努力で1991年に静岡県が買い上げ、自然環境保全地域として現在に至っている。
この沼には、もともとアメリカザリガニ(以下、本種)が生息していたが、1998年に突如として大発生し、ベッコウトンボやオニバスなどの希少種を含む多くの水生動植物が危機的状況に陥った。この大発生の影響については、トンボ類や水草など一部の分類群では記録があるが、これまで水生昆虫全般の影響が検討されたことはなかった。今回、磐田南高校生物部による大発生前からの調査標本を同定する機会に恵まれた。また、2011年から現状調査を実施し、出現種を比較することで本種の大発生が水生昆虫相に与えた影響を明らかにした。
その結果、水生甲虫類は5科34種から5科18種に、水生カメムシ類は5科22種から5科13種に減少していた。特にゲンゴロウ科やガムシ科は大幅に種数を減少させていた。現在確認できない種の中には、ヒメミズスマシやコバンムシのように全国的に希少種とされるものも含まれるが、比較的普通種とされてきたツブゲンゴロウ属や、コオイムシやタイコウチなど大型の水生カメムシも含まれていた。これらのことから、本種はトンボ類や水草類だけでなく沼の水生昆虫類の生息に対しても大きな負の影響を及ぼしており、その影響は現在も継続していることが明らかとなった。一方でコツブゲンゴロウ科のように種数を減らしていないグループもあり、本種による影響はグループによって程度に差があることも示唆された。