林床を覆う落葉リターは、森林生態系の栄養循環を決める本質的要素だが、種構成・現存量ともに空間的に不均一なものである。そのため、各樹種の落葉散布特性をモデリングすることは、林床におけるリター分解の生態系機能を定量化する上で重要と考えられる。そこで、本研究では渓畔林構成樹種の落葉散布特性を明らかにするとともに、林内の各場所への落葉の散布量と種構成を空間的に推定可能な落葉散布モデルを構築した。

林内に規則配置したリターフォールトラップより得られた多種混合落葉の現存量データと、ブナ・ミズナラ・イタヤカエデ等の主要樹種9種の生立幹の位置・サイズデータとを使用して、逆算モデリングにより各樹種の落葉散布カーネルを空間ベイズ推定した。推定された散布カーネルの結果、ほぼ全ての樹種で母樹から半径10m以内のごく近傍に散布される可能性が高かった。また、ヤマモミジ等の亜高木は他の林冠に達する高木種よりも、より短距離に散布される確率が高かった。したがって、落葉の散布量とリターに占める樹種の構成は、樹木幹の空間分布構造の制約を強く受けるといえる。

落葉リターの種構成を予測可能とすることは、林床におけるリター分解過程の空間的不均一性を予測する上で有用と考えられる。本研究は、樹木の空間分布パターンというデモグラフィックなプロセスと、林床における落葉リターの分解プロセスとを、落葉の散布過程をモデル化することによって統合可能な点で有意義な成果である。