| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-019 (Poster presentation)

兵庫県南東部の六甲山地における希少植物カキノハグサの生育環境特性

*黒田有寿茂,小舘誓治(兵庫県大・自然研)

六甲山地(丹生山系,六甲山系)におけるカキノハグサの生育環境特性を明らかにするために,本種の分布,生育地の立地環境,林分構造,種組成を調べた.また,本種の生育適地について検討するために,着花に及ぼす立地環境条件の影響について解析した.

本種は頂部斜面に偏ってパッチ状に分布しており,斜面中腹や谷部ではみられなかった.生育地は夏緑樹展葉前の空隙率が非生育地よりも大きく,L層の厚さ,土壌の電気伝導度が非生育地よりも小さい傾向にあった.生育地における胸高断面積合計の上位3種は,丹生山系ではソヨゴ,コナラ,コバノミツバツツジ,六甲山系ではアカマツ,タムシバ,ソヨゴであった.夏緑樹の樹高階分布に関し,生育地では最も低い階級でピークがみられる一方,非生育地ではそれ以上の階級でピークがみられた.種組成に関し,生育地は多年生草本を多く含むことが特徴的であった.これらの結果から,カキノハグサは常緑樹が林冠を閉鎖しておらず,土壌がやや未発達で,下層に光がよく透過する立地環境を主なハビタットとしていることが示唆された.着花確率50%となるサイズ(個体の高さなど)を一般化線形混合モデルのロジスティック回帰の結果から求め,それ以上のサイズの個体からなるデータセットを用い,着花に及ぼす立地環境条件(L層の厚さなど)の影響をロジスティック回帰とAICにもとづくモデル選択により検討した結果,AICの小さいモデルの説明変数にはL層の厚さ,空隙率が含まれ,前者の係数はいずれも負,後者の係数はいずれも正であった.このことから,着花には植分上層が未発達で適度に明るい立地環境が必要と考えられた.本種の頂部斜面に限定された現在の分布は,遷移の進行による森林構造の発達とそれに伴う光・土壌条件の変化を経て形成されたものと推察された.


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