| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-054 (Poster presentation)
カラマツとの交雑種であるグイマツ雑種F1は,対鼠性の向上を目的として開発された造林品種である。その中でも,グイマツ精英樹の中標津5号を母親,カラマツ精英樹を父親としたクリーンラーチ(CL)は,カラマツよりも初期成長が早いだけでなく,材密度が高いことから,炭素固定能の高い造林品種として着目されている。本研究では,CLの高い炭素固定能をもたらす要因について検討するため,CLとカラマツ成木の光合成特性の空間パターンを調べた。
研究は,北海道美唄市の北海道立総合研究機構林業試験場内にあるCLとカラマツの見本林で行った。閉鎖林分内に生育するCLとカラマツの成木各3本(樹高23 m程度)について,高所作業車を用いて樹高階別に各個体8カ所の葉の上で全天空写真を撮影し,光環境を測定した。その後シュートを採取し実験室内でA/Ci曲線を作成し各光合成特性パラメータを得るとともに,葉面積あたりの乾重(LMA)と窒素濃度を測定した。
散乱光成分の光環境を表すIndirect site factor(ISF)と着葉高の関係は,CLとカラマツでほぼ同様の傾向を示し,葉の空間分布に両者で明瞭な差はないと考えられた。ISFを明,中,暗の3段階に区分し,各生理パラメータの平均値をCLとカラマツで比較すると,明所では両者に明瞭な差が認められなかった。中間部分や暗所では,CLのほうがカラマツよりも光飽和の光合成速度,最大カルボキシル化速度,最大電子伝達速度,気孔コンダクタンス(gs),光合成窒素利用効率が高かったが,LMAや葉の窒素濃度に差が認められなかった。こうした結果から,CL成木の高い炭素固定能の要因として,葉内窒素の光合成系への多い分配と高いgsにより,樹冠の中間や下層の葉で光合成ポテンシャルが高いことが考えられた。