| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-070 (Poster presentation)
近年、大気中の二酸化炭素濃度の上昇による地球温暖化の進行とそれによる生態系及び生物多様性への影響が懸念されており、今後の温暖化環境下での植物の光合成生産に注目が及んでいる。
本研究では、気温の上昇が林冠木葉群の生理的・形態的特性とその季節性にどのような影響をどの程度及ぼすのかを、野外模擬温暖化実験によって明らかにすることを目的とした。調査地は炭素循環研究サイトである「高山サイト」の冷温帯落葉広葉樹林とし、対象樹種は林冠層を優占するダケカンバ(2013年)とミズナラ(2011~2013年)とした。林冠観測タワー上に温暖化区(開放型温室)を設置し、温暖化区の日中の平均気温を対照区に比べて1.2~2.1℃高い気温に維持した。これらの葉群を対象として、葉の生理的特性(クロロフィル含量と光合成能)と形態的特性(LMA: Leaf Mass per Area)の計測を季節を通じて行った。また、定点デジタルカメラを用いて葉群の開葉・展葉と黄葉・落葉のモニタリングも行った。
その結果、ダケカンバでは温暖化区で開葉の早期化と黄葉の遅延により着葉期間が5日延びた。しかし、生理的特性や形態的特性には温暖化区と対照区の間で顕著な差はみられなかった。ミズナラでは温暖化区で開葉の早期化と黄葉の遅延により着葉期間が約7日延びた(2013年)。クロロフィル含量や光合成能は、温暖化区のほうが季節を通じて10%ほど高かった。一方で、形態的特性には温暖化区と対照区の間で顕著な差はみられなかった。以上の結果より、温暖化によってミズナラではダケカンバに比べて着葉期間と光合成能が増加し、光合成生産が増加する可能性が示唆された。今後は樹種による気温の応答性や、気温以外の環境要因も考慮に入れた実験的検討を行う。