| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-071 (Poster presentation)

樹木の形質の温度勾配:種内・種間・群集間で比較する

*小野田雄介(京大・農),饗庭正寛,黒川紘子(東北大・生命科学),兵藤不二夫(岡山大・異分野コア),市栄智明(高知大・農),中静透(東北大・生命科学)

日本は南北に長く、大きな気温傾度に沿って、多様な植物が生育する。種の分布温度域は、温量指数等によって経験的に評価されるが、どのような特性が種の分布温度域を決定するかは良くわかっていない。葉や材などの機能形質は気温と相関することが知られているが、これまでの広域スケールの温度傾度の研究では、単純な種間比較にとどまり、種内変異や種の分布域を考察したものはほとんどない。種内と種間の両方で、形質の温度傾度を評価することにより、(1)群集レベルにおける温度の選択圧、(2)種内の温度応答の制約と分布域の関係を明らかにできると考えた。本研究では、この考えに沿って、北海道から南西諸島までの計22カ所のモニタリング1000の森林サイト(面積は1ha)に出現する胸高直径5cm以上の全ての木本種の葉や材の形質を収集、解析した。

群集レベルでは、気温の上昇と共に、葉面積や葉窒素含量の低下、材密度や葉面積あたりの葉重の増加がみられた。種内の応答は、定性的には、群集レベルの応答と同じパターンを示すことが多いが、群集レベルに比べると温度依存性の程度は弱い傾向があった。この結果は、形質の種内変異に制約があり、そのため、大きな温度傾度では、種の可塑性ではなく、種の置き換わりによって、群集が構成されていることを示すものである。

また種の分布温度域の広さは、種の形質の値や、種の温度依存性には関係しなかった。一方で、形質の種内変異が大きい種は、分布温度域も広い傾向があった。つまり、種の分布域の広さは、形質の値や温度応答そのものでは説明がつかず、広域分布する種はそれに応じて形質の変異も大きいことが分かった。


日本生態学会