| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-077 (Poster presentation)
将来の気候変動に対して、森林が持つ二酸化炭素吸収能が期待されている。植物が光合成で炭素を取り込む過程については、非常に多くの研究があるが、光合成で取り込まれた後の炭素動態に関しては不明な部分が多く、その季節変動については明らかではない。本研究では、とりわけ実験例が少なくデータに乏しい樹木成木を対象として、炭素安定同位体を用いたラベリング実験を行い、レーザー分光を用いたガス分析計により、呼吸によって放出される炭素について連続的に測定し、光合成によって取り込まれた炭素の追跡を行った。
2012年9月(秋季)、12月(冬季)、2013年7月(夏季)に山梨県富士吉田試験地にてアカマツ成木(樹高約20.5m)を対象にラベリングを行った。呼吸によって放出される炭素をモニターするために、アクリル製の閉鎖循環型のチャンバーを幹4箇所に設置した。13CO2の測定にはCRDS型二酸化炭素安定同位体アナライザー(Picarro Inc., CA USA, G2101-i)を用いて行った。ラベリングの後、各チャンバーを15分程度のサイクルで測定し、キーリングプロットを利用して、放出されるCO2の炭素安定同位体比を連続観測した。
いずれの時期の実験でも、ラベリングの後、上方の幹チャンバーから順に高い同位体比のが検出された。その炭素移動速度は0.04-0.23(m/hr)程度と見積もられ、秋季・夏季の上部で速く、冬季の下部で遅かった。取り込まれた炭素の放出パターンは、秋季・夏季ではすみやかに下方に流れ、呼吸によって消費されていたが、冬季においては他の時期と大きく異なっており、春先、気温が上昇し、光合成・蒸散活動が活発になるにつれて、急激に下方に流下し、呼吸基質として使われることが観測された。