| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-088 (Poster presentation)
樹木の幹の肥大成長は、森林の生産量を推定する上でよい指標となる。しかし、その気象応答については未解明な部分が多い。その理由の一つとして、貯蔵養分の利用があげられる。落葉広葉樹では春先の肥大成長は開葉前に開始し、前年の光合成産物である貯蔵養分を用いて行われる。しかし、当年の光合成産物の利用にいつ切り替わるのかはあまりわかっておらず、これらの利用時期の違いは、肥大成長の気象応答機構を明らかにする上で重要である。年輪内の安定同位体比の変化は、幹の木部形成に用いられる炭素化合物の由来を反映し、貯蔵養分の利用時期などを推定するのに有用である。そこで本研究では、落葉性の環孔材であるミズナラを用いて年輪内の炭素・酸素・水素安定同位体比の季節変化を調べ、貯蔵養分から当年光合成産物の利用に切り替わる時期、およびこれと木部形成や光合成の季節変化との対応を明らかにすることを目的とした。
北海道大学苫小牧研究林内で採取したミズナラの成木三個体の年輪試料を板状のままセルロースにし、顕微鏡下で年層内を等分に切り分けた。これらを用いて分析した結果、炭素および水素安定同位体比は孔圏部分では徐々に低下し、孔圏外に切り替わると同時にほぼ低下しきるというパターンを示した。このことから、孔圏では貯蔵養分を利用する一方、孔圏外に移行する時点で当年光合成の利用に切り替わることが示唆された。また、酸素安定同位体比などからこの切り替わりは7月初旬頃と推定され、光合成速度が最大となる時期と一致することが示唆された。さらに、酸素同位体比と相対湿度との対応から、年輪幅が狭い年は孔圏外の形成の終了時期が早い傾向にあることが推測された。