| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-089 (Poster presentation)

散水実験によるタイ北部の落葉性チーク林のフェノロジーに土壌水分が及ぼす影響の解明

松尾奈緒子(三重大・生資),*梅村匠(三重大・生資),鎌倉真依(京都大・農),馬場亮輔(京都大・農),田中克典(JAMSTEC)

熱帯モンスーン林のひとつであるタイ北部の落葉性チーク林では,モンスーン(季節風)の開始・終了時期とともに乾季・雨季の切り替わりが年々変動し,それに対応して樹木の展葉・落葉時期も年々変動することが報告されている.落葉林において着葉期間が大きく変化すると地域の水・炭素循環に大きな影響を与えるため,その原因の解明が重要な課題となっている.先行研究により,降雨に伴う土壌水分の上昇が展葉開始のトリガーである可能性が示唆されているが,その直接的な証拠はいまだ示されていない.そこで本研究ではタイ北部の落葉性チーク林において乾季後期から原位置散水実験を行い,土壌水分量が展葉時期および個葉ガス交換特性に及ぼす影響を明らかにした.

散水木では3月5日の散水開始後すぐに樹液流速度が上昇したのに対し,対照木ではおよそ45日ほど遅れて発生した自然降雨に対応して上昇したことから,土壌水分の上昇に対応して展葉開始することが確認できた.

散水木と対照木の成熟葉を対象としたガス交換速度測定の結果,散水木の光飽和時の気孔コンダクタンスは対照木と同程度であったのに対し,光合成速度は対照木よりも低く,その結果として水利用効率が低いことがわかった.同様の傾向は,葉の炭素安定同位体比から推定した長期平均的な水利用効率でも得られた.散水木の葉の乾重あたりの窒素含有量は7月中旬頃から低下し始め対照木よりも低くなっていた.このことが,散水木で光合成速度が低かった原因であると考えられる.


日本生態学会