| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-156 (Poster presentation)
捕食者である細菌は一般的に分泌した溶菌酵素により被食細菌を溶かし、その内容物を自己の栄養とすることが知られている。しかしこの様な捕食から逃避する細菌はこれまで知られていなかった。我々は、温泉微生物群集内の種間相互作用を研究する中で、光合成細菌がプロテアーゼ生産菌の高濃度プロテアーゼにより溶菌し、餌となることを確認した。さらに、低濃度のプロテアーゼは、光合成細菌の運動速度を促進し、プロテアーゼから遠ざかる方向への運動が起こることを明らかにした。これらの結果から細菌における捕食に対する逃避行動の存在を初めて示唆した。この逃避行動のメカニズムを調べるために、プロテアーゼによる細胞溶菌と運動との関係を調べた。
光合成細菌を、異なる濃度のプロテアーゼを添加した培地に接種・培養し、経時的に濁度測定と細胞凝集運動速度測定を行うことにより、細胞溶菌と運動の関係を調べた。その結果、高濃度では溶菌が起こるが、濃度が低下するにしたがって溶菌だけでなく運動性の促進も同時に観察されるようになり、さらに低下すると運動性の促進のみが起こった。この時、プロテアーゼ非添加の系に比べ若干の増殖の低下が見られた。そこでプロテアーゼが溶菌を起こす前に運動性に与える影響を調べるために光合成細菌の細胞とプロテアーゼを、溶菌しない程度に反応させた。反応後の処理液上清からプロテアーゼを除去し、分子量1万以下の低分子物質を含む画分を得た。この画分が運動性に与える影響を調べたところプロテアーゼと同等の運動性促進活性が見られた。
以上の結果から、光合成細菌は自身が溶解される前に細胞表層のプロテアーゼによる部分分解により遊離した低分子物質を感知して逃避行動をしていると考えられた。