| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-168 (Poster presentation)

伝統的カヤ場における火入れの有無によるカヤの品質の差異

小谷一央(信州大・教・環境教育),*井田秀行(信州大・志賀自然教育研/山岳総研)

長野県小谷村の伝統的カヤ場において、カヤ(主にススキ属オオヒゲナガカリヤスモドキ)の品質に与える火入れの効果を検証した。当カヤ場では毎年春に火入れを実施し、秋にカヤを屋根材として出荷している。

2013年の火入れ前の4月、カヤ場内の10地点に次の3つの処理区(1.5m×1.5m)を設定した:1)前年カヤ除去+火入れ区(RB)、2)前年カヤ残置+火入れ区(LB)、3)前年カヤ残置+火入れ抑制区(LC)。RBとLBは3メッシュ(1メッシュ0.5m×0.5m)に、LCは1〜11メッシュにそれぞれ区分した(合計メッシュ数はRBとLBが30、LCは50)。5月の火入れ時、LCではトタン板を覆うことで火入れを抑制した。火入れ後、3〜5週間ごとに全メッシュでカヤの群落最大高および植被率を測定した。10月の刈り取り前、カヤの桿の一割直径と密度(本数)を全メッシュで計測し、地上部を刈り取った後、研究室に持ち帰りバイオマス(乾重量)を計測した。

調査の結果、最大高と植被率は8月中旬までは有意にLB>RB>LCとなったが、10月の刈り取り時期に差は認められなかった。すなわち群落の相観(植生景観)に対しては火入れの影響が顕著に表れないことを示唆する。一方、カヤの一割直径と密度、バイオマスはいずれも有意にLB>RB>LCとなった。この結果から、カヤの桿ないし株の成長に対しては火入れがそれらを助長する傾向をもつことが推察された。また、カヤを残して火を入れたLBが最大の成長を示した理由には、燃焼したカヤが栄養分となった可能性が考えられる。以上より、火入れがカヤの品質を左右することが示された。実際の収穫作業は択抜的に実施されるため、毎年のこうした適度な刈り取りと火入れが、カヤの品質を均一に保つ上で重要な役割を果たしていると考えられる。


日本生態学会