| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-173 (Poster presentation)
東北地方太平洋沖地震に続いた津波による攪乱の実態と,攪乱で生じた生物的遺産の分布を明らかにするために,海岸林における震災前後の林冠状態と,倒木・マウンド・ピットを記録した.震災前後の標高を林冠状態ごとに抽出し,津波に対する樹木の応答やその要因について考察した.
2008年9月と2011年3月のGoogle Earth画像をGISに配置し,閉鎖林冠と林冠ギャップとを区分した.両者を交差し,次の3領域に区分した:震災前後とも閉鎖林冠(残存林),閉鎖林冠から林冠ギャップに変化(倒壊林),震災前後とも林冠ギャップ(ギャップ).2006年12月と2012年7月のDEMを用いて残存林と倒壊林,ギャップにおける標高を調べた.2011年3月の航空写真を参照し,倒木とマウンド,ピットをトレースした.
連続していた海岸林は攪乱後に52パッチに断片化し,森林面積は半減した.残存林は汀線に対して垂直に櫛の歯状に分布し,倒壊林が介在した.倒壊林には,津波の進行方向と平行に多数の倒木が確認された一方,樹木が流亡し,倒木密度の低い領域もあった.震災前の標高を倒壊林と残存林で比べると両者に大きな差はなかった.震災後の倒壊林には,標高が大きく減少した領域と,増加した領域とが確認された.減少は樹木が流亡した領域に顕著で,増加はその背後や,倒木が多い領域にみられた.その結果,倒壊林の標高の頻度分布は二山型へと変化した.
以上の結果は,海岸林の倒壊と残存が,標高のわずかな違いよりも堤防や湿地の配置などの地形的要因に応じて流れを変える津波の複雑な動態に左右されている可能性を示唆する.また,津波によって,倒木やマウンド,ピットなどの生物的遺産が生じた実態を示した.