| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-195 (Poster presentation)

亜高山帯常緑針葉樹林における攪乱60年後の標高別林分動態

*小林元(信大農・山岳総研),舩木昇(山梨県庁),吉村太一(広島県庁)

信州大学西駒演習林は,1950年代初頭に大学演習林用地として民有林から移管される際,亜高山帯下部の標高2000mから森林限界近くの2400mまで大規模に択伐されことが年輪解析から明らかにされている。本研究では,択伐による大規模攪乱から約60年が経過した亜高山帯モミ属二次林の林分動態を標高別に明らかにする。調査は,中央アルプス将棊の頭(標高2672m)から北東方向に延びる丸尾根で行った。標高2000m,2200m,2400m地点に30m×30mの固定試験地を設置し,プロット内の樹高1.5m以上の全個体の胸高直径を2008年と2012年に測定した。調査の結果,2000mプロットは本数密度が低く新規加入個体もなく小径木も少ないことから,林冠閉鎖後長い時間が経過しており,発達した林分であるといえた。2200mプロットは胸高断面積合計が最も大きく死亡率も高いことから,林冠閉鎖後間もない状態にあるといえた。2400mプロットは林冠の閉鎖が進んでおらず小径木が多く生存率も高く,林分発達の初期段階にあると推察された。このように攪乱後の林分発達には標高による時間的経過の違いが認められ,標高の高い林分では時間的経過が相対的に短い状態,標高が低い林分では長い状態にあることが判明した。2000mと2200mプロットの間には,直径階推移行列による林分動態に約20年の時間差が見られた。2000mでは今後,老齢の枯死木や倒木が発生し,そのギャップを利用して後継樹が更新していくと思われる。2200mでは,個体間競争により下層木の枯死が更に進み,新規加入個体も少なくなり,2000mの林況に20年遅れて近づいていくことが予想される。一方,森林限界に近く高山特有の厳しい自然環境にある2400mでは,今後林分が発達し本数密度が減少に転じるまでには,更に長い時間を要するものと考えられる。


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