| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-197 (Poster presentation)
近年の気候変動に伴い、多くの生物群において分布の上昇が予測・報告されており、生態系や種多様性の保全を図る上で更なる観測が必要とされている。しかし、これまで多くの報告がなされて来た温帯や寒帯に比べて、生物多様性に大きく貢献している熱帯においては、未だに報告事例が少ない。また熱帯島嶼では、独自の貴重な生態系にも関わらず、外的要因に対し脆弱な特性から、少しの影響でも大きく作用する可能性がある。そこで本研究は、アメリカのハワイ火山国立公園において、標高傾度に沿った維管束植物種の分布移動を調査した。
1970年代に当時の国際生物学事業計画のもと、マウナロア山の標高に沿って設置された46箇所の植生調査プロットにおいて、維管束植物の各階層における被度を種ごとに再度調査した。そして各種において過去と現在における分布標高域を解析し、両者の平均値の差を算出して過去40年間における分布域の変動を解明した。なおハワイ火山国立公園における気象観測では、調査地は過去60年間に気温が1℃程度上昇し、降水量は顕著な増減はみられなかった。
結果として、解析された67種中75%にあたる50種において平均標高が上昇していた。67種の平均分布上昇値は、標高で69.6m(95%信頼区間:22.7 〜 116.6 m)であり、現在の分布標高域は過去に比べて有意に上昇していた(P < 0.01)。分布の上昇傾向は全ての標高域で同様にみられ、分布する標高幅が広く、出現プロット数の少ない種ほどその標高変化幅は大きくばらついていた。これらの結果は、ハワイの維管束植物種群が全体に高標高域へ上昇していたことを解明した物であり、その分布移動の方向性は現行の温暖化によって予想されるものと一致していた。